PAGE
TOP

with Me

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」

集合写真

「障害者と関わる機会の少ない若者に出会いたい」障害当事者としての思い。

 今回訪問した障害者自立生活センターIL・NEXT(アイエル・ネクスト)は、一般社団法人REAVA(ラーバ)が運営する磯子区の地域活動支援センター作業所型の一つ。ここでは10名程の利用者が軽作業や創作活動に励んでいます。脳性麻痺の当事者として発信をしながら、理事長を務める渋谷治巳さんに団体の特徴について伺いました。

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」
一般社団法人REAVA 理事長の渋谷治巳さん

 「当団体の一番の特徴は、障害当事者が運営していることです。インクルーシブな社会の実現に向けて様々な障害福祉制度が整備されていますが、作っているのは健常者で本当の意味で障害者に寄り添ったものは少ないと感じています。当団体は障害当事者が肌で感じた社会の問題点を発信し、障害がある人もない人も共に暮らせる社会を目指しています」

 インクルーシブな社会に向かう過程で健常者と障害者の間にずれが生じ、その溝が埋まらないのは、障害者が何に困り、何を望んでいるかを知るための接点が足りないからだと渋谷さんは考えます。IL・NEXTは、15年程前からインターンシップで近隣の大学生を受け入れていますが、この活動が障害者と、障害者と関わる機会が少ない若い世代をつなぐ架け橋になっています。

「障害者と日常的に接点を持つのは、ボランティア活動に参加する、障害福祉関連の仕事に就く、あるいは身内に障害者がいる人に限られます。インターンシップは若い人たちと積極的に関わることで、私たちの応援団を増やしたくて始めました。思いを持った若い人たちとの出会いは楽しいものですよ」

インターンシップは、一緒に考えて気づきを得る貴重な機会

 参加する学生の募集は、若者とNPOをつないでまちを盛り上げる活動を行っているNPO法人アクションポート横浜のNPOインターンシッププログラムにより行っています。インターン生は障害を中心にした様々なテーマで当事者とのディスカッションをする一方、この時期に行われる夏まつりの企画・運営や、軽作業の補助、食事の準備・介助などに携わります。

 「先日は1979年の養護学校義務化に対して、反対運動を起こした障害者たちのドキュメンタリー映画『養護学校はあかんねん!』を視聴し、意見交換をしました。
 健常者は普通校、障害者は養護学校と分けることでどんな弊害があるか。現状ではそのことにまったく関心がないか、障害があれば養護学校に行くのが当たり前と思っている人が圧倒的に多いです。
 インターン生たちは想像以上に課題を受け止める力があり、障害がある人とない人が当たり前に一緒に暮らせる本来あるべき社会について一緒に考えてくれました。こうした社会課題に目を向け、心に留めておいてもらえたら嬉しいです」と渋谷さんは話します。

インターン生のリアルな声をインタビュー

 今回、IL・NEXTでインターンシップを体験したのは岡田紗弥さん(田園調布学園大学1年)、福川煌陽さん(関東学院大学1年)、羽根田暁虹さん(明治大学3年)、山﨑藍さん(横浜市立大学3年)。※以下、敬称略

 インターンシップに参加した理由は「人として成長したい」「誰かの役に立ちたい」「大学の授業をきっかけに、今まで知らなかった障害のある方の日常を知りたいと思った」など様々です。それぞれの思いを持つインターン生のみなさんに、今回の体験についてお話を伺いました。

―――障害者と深く関わるのは初めてという方もいると思いますが、インターンシップの前後で気持ちの変化はありましたか。

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」
インターンシップ生
羽根田暁虹さん

羽根田:参加前は、障害のある方と関わる機会がほとんどなかったため、障害に対してプラスの意味でもマイナスの意味でも、勝手なイメージを抱いてしまっていた部分がありました。しかし、実際に一緒に作業をしたり、対話したりを通して向き合う中で、それらのイメージは健常者側が一方的に作り上げたものでしかないことに気づきました。利用者さんから直接お話を伺わなければ知り得なかったことが多くあり、無知ゆえに物事を決めつけてしまうことの怖さを強く実感しています。健常者であっても得意・不得意があるように、障害も一つの個性として捉えるべきだと感じました。今後のインターンでも、障害という色眼鏡を通さずに、その人自身と向き合う姿勢を大切にしていきたいです。

福川:障害福祉の知識がなくインターンシップに参加する前は偏見の塊でした。コミュニケーションが難しく、トラブルが起こるのは日常茶飯事。そんなイメージがありましたが、利用者さんと一緒に作業やお話をしてみると、前向きに自分の人生を歩んでいることが分かり、イメージが180度変わりました。

―――利用者さんとコミュニケーションをとる上で、難しかったことはありますか。

岡田:最初は言葉を聞き取るのが難しかったですが、大学の先生に「間に入ってくれる支援者のほうを向いてしまうと、当事者と向き合えなくなる」と言われてハッとしたんです。
せっかく話をしてくれているのだからちゃんと聞こうって。真剣に向き合うと少しずつ聞き取れるようになり、わからないときは失礼のない言い方で支援者を通さず自分で聞き返すようにしました。

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」
インターンシップ生
福川煌陽さん

福川:障害のある方と自分では、育ってきた環境や培った価値観が違う。その考え方がコミュニケーションの壁になっていました。途中からその壁をとっぱらって会話をしたいと思い、とにかく楽しむことを大事にして、障害で相手を見るのではなく一人の人として接するようにしました。

―――コミュニケーションが深まるなかで、利用者さんから得た気づきはありますか。

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」
インターンシップ生
岡田紗弥さん

岡田:「自分はあまり会話ができないけど、話したいことはいっぱいある」と教えてくれた利用者さんがいました。その言葉を聞いたとき、なんで自分から気づけなかったんだろう、もっと向き合いたいと思いました。それからは積極的に声をかけたり、反応を返しやすい聞き方をしたり、気持ちを伝えてもらえるよう工夫をしました。

―――インターンシップを経験して社会の見え方はどう変わりましたか。

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」
インターンシップ生
山﨑藍さん

山﨑:『養護学校はあかんねん!』を視聴して感じたことがあって。普通校・養護学校と分けてしまうと、健常者と障害者が一緒に生活する場がなくなり、健常者は障害者に関心を持ちにくくなってしまいます。
社会には障害福祉の制度がたくさんあるけれど、当事者から見ると不十分なものが多いと渋谷さんもおっしゃっていました。もっと接点を持ち障害者理解を深めて、当事者の意見を取り入れた政策が必要だと感じました。

羽根田:多様性が叫ばれているけど、まだまだ健常者と障害者の間には高い壁が存在していると思います。みんな個性があって当たり前、障害も個性の一つという視点が壁をなくす一歩になると思います。

―――みなさんが社会に出たとき、今回の学びをどのように活かしたいですか。

福川:この経験をまずは自分の心に留めて忘れないようにしたいです。そして自分より下の世代に伝えていくのが大事だと感じます。IL・NEXTで学んだ価値観や障害者を取り巻く現状を伝え、偏見をなくしていきたいです。

山﨑:インターンシップに参加して、社会には障害者に限らずいろいろな人が暮らしていると知りました。どんな仕事に就いても自分の想像が及ばない世界があることを忘れず、だからこそ想像力を働かせて広い視野で仕事をしていきたいです。

―――最後に、みなさんが考える「インクルーシブな社会」について意見を聞かせてください。

岡田:助けが必要な人を気にかける人がいて、誰も取り残さない状態が実現できているのがインクルーシブな社会だと思います。

福川:地域や職場や家族のなかで、障害のある人が普通に生活している社会が本当のインクルーシブだと渋谷さんがおっしゃっていて、そんな社会はすごく魅力的だと思います。

羽根田:一人ひとりの意見に積極的に耳を傾け、違いを認めて尊敬し合える社会が理想です。障害者だからといって距離を取るのではなく、正面切って向き合える社会にしていきたいです。

山﨑:インクルーシブと聞いてイメージするのは、障害者への先入観や偏見がフラットになり、障害の有無に関わらずすべての人の自由が尊重される社会です。

―――では、渋谷さんが考えるインクルーシブな社会とは?

 「障害者が学校のクラスや職場にいて、自宅の隣に住んでいるのが当たり前の社会です。健常者と障害者が日常生活を共有できてこそ互いの理解が深まり、真の共生ができると感じます。インターン生たちはこれから様々なライフステージに立つと思いますが、障害があって社会で暮らす人たちと、どんな形でも良いので関わり続けてほしいと思います。」

若い世代の応援団を増やし、目指す先は互いの違いを認めあい共に暮らす「インクルーシブな社会」

インタビューにご協力いただいた渋谷さんとインターン生の集合写真

前列、一般社団法人REAVA 理事長の渋谷治巳さん
後列左から、羽根田暁虹さん(明治大学3年)、山﨑藍さん(横浜市立大学3年)、岡田紗弥さん(田園調布学園大学1年)、福川煌陽さん(関東学院大学1年)

【紹介】NPOインターンシップ参加学生のブログ(IL・NEXTインターン生の記事ページ)
https://ameblo.jp/npointernship/theme-10110512087.html